今までCPUクーラーは空冷派でしたが、第13世代Core i7(13700K)の爆熱を抑えきれず、久しぶりに水冷クーラーで組みました。そこでふと思ったのがラジエターの冷却ファンの向きです。なんとなくPC内の空気を外に排出する「排気」のほうが良さそうな気がしますが、本当にそうでしょうか?世間で言われているラジエターに対する取り付け方向、いわゆる「プッシュ」と「プル」に関しても検証してみました。
「吸気」と「排気」と「プッシュ」と「プル」
本記事では「吸気」と「排気」は【PCケースに対して】「吸い込む」か「吐き出す」かと定義します。
また、「プッシュ」「プル」は【ラジエターに対して】「吹き付ける」か「吸い出す」かと定義します。
テストの条件
温度関係のテストは条件を揃えるのがとても難しく、今回のテストでは室温、ケース内の温度、水冷クーラーの冷媒(冷却水)の温度を揃える必要があります。CPUの温度は大抵の場合は最高温度で語りますので、冷媒の温度が高い状態でベンチマークを開始すると瞬間的に高い最大温度を記録してしまいます。
今回のテストでは、PCケースの前面にCorsairの360mm簡易水冷「iCUE H150i RGB PRO XT」を取り付けてCINEBENCH R23で負荷をかけています。今回使用したPCケース「MSI MAG FORGE 110R」は、240mmまでのラジエターが取り付けることができるように上面がメッシュになっています。ケースファンはPCケースに付属していた120mmファンを背面に1つのみ装着しています。
室温はなるべく一定となるように空調で調節しています。ケース内の温度もファンの向きを変える間はサイドパネルを開けて分解しますので室温と揃います。冷媒の温度は前準備としてベンチマークを実行し、一定の温度に達したところでベンチマークを停止、28℃まで下がったところでテストを開始することで揃えています。また、通常は温度によって冷却ファンは回転数を可変しますので、これも条件を揃えるたびに常に最大回転数で回すように設定しています。
テスト条件
・室温20℃
・冷却ファン全開
・冷媒温度28℃でCINEBENCH R23を開始
・開始9分後(CINEBENCH R23の終了前)のCPU温度を取得
また、CINEBENCH R23開始時と終了時のPCケース内の温度も測定しています(この画像ではサイドパネルが外されていますが、テスト中はもちろん装着しています)
水冷クーラーのファンの向きは吸気か排気か?
吸気と排気でのCPUの冷却を比較します。後述するプッシュとプルは、ネットで効果が高いと言われているプッシュ(ラジエターに空気を吹き付ける方向)に統一します。つまり吸気の場合は冷却ファンを外側に、排気の場合は内側に取り付けています。
吸気の場合には外の空気でラジエターを冷やしますのでCPUの冷却には有利ですが、ラジエターの熱はケース内に入ることになります。排気の場合にはPC内の温かい空気でラジエターを冷やしますのでCPUの冷却には不利になりますが、ケース内の熱は外に放出することができます。
CINEBENCH R23開始後に9分経過したときのCPU温度の比較です。
吸気・プッシュ
排気・プッシュ
最高温度で3℃ほど吸気の方が低い結果になりました。動作中の温度も吸気の方が80℃台のPコアが多く、アイドリング中の最低温度も全体的に低いですね。大した差はないとも言えますが、吸気の方が低いのが見て取れます。
終了時のPCケース内の温度はどちらも23.0℃と全く差が出ませんでした。ケースファンが1つだけでしたので、吸気の場合には排熱が間に合わないかと思いましたが、前面から吸い込んだ分はケースの背面と上面から押し出されたのでしょう。逆に排気の場合にはケースファンとラジエターのファンが両方ともに空気を吸い出そうとしますので、ラジエターファンが流すエアがケースファンに相殺される形で減少したのかもしれません。エアフローって難しいですね。ちなみに冷媒の最大温度も吸気が29.9℃、排気が31.5℃で、吸気の方が低かったです。
「冷却ファンの取り付け方向はプッシュが効率が高い」は本当か?
上記のテストでは、ラジエターに対する冷却ファンの方向は「プッシュ」で統一していました。ネットではよく「冷却ファンの方向はプッシュの方が冷える」と言われていますので、それに従った形ですが、個人的にはプッシュでもプルでも空気の流量は変わらないから効果も変わらないのでは?と思います。そこで、このプッシュとプルも検証してみます。上のテストでPCケースに対しては排気よりも吸気の方が良さそうという結果が出ていますが、一応、吸気と排気のプルで、上記テストと同じテストを実施し、吸気と排気それぞれでプッシュとプルを比較してみます。まずは、吸気でプッシュとプルを比較してみます。
吸気・プッシュ
吸気・プル
最低温度はほとんど差がありませんが、最大温度も動作中の温度もプッシュの方が低いですね。プルの方はやはり100℃に到達しないギリギリと言ったところです。次に排気でプッシュとプルを比較してみます。
排気・プッシュ
排気・プル
排気の場合でも最低温度は誤差程度ですが、最大温度も動作中の温度もプッシュの方が低いという結果になりました。排気のプルは瞬間的にではありますが、遂に最大許容温度の100℃に到達してしまいました。
簡易水冷のラジエターの冷却ファンの向きは「吸気」&「プッシュ」が良さそう
これまでの検証結果のポイントを表にまとめてみました。パッケージというのはCPU全体のことです。
パッケージ 最大温度 |
パッケージ 最低温度 |
Pコア 最大温度平均 |
Pコア 最低温度平均 |
終了時 ケース内温度 |
|
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吸気・プッシュ | 96℃ | 30℃ | 90.4℃ | 23.9℃ | 23.0℃ |
排気・プッシュ | 99℃ | 31℃ | 94.1℃ | 25.1℃ | 23.0℃ |
吸気・プル | 99℃ | 30℃ | 93.9℃ | 23.9℃ | 26.6℃ |
排気・プル | 100℃ | 32℃ | 95.8℃ | 25.5℃ | 23.4℃ |
一番温度の低い吸気・プッシュが表の一番上にありますので「テストしているうちに熱が蓄積していったのでは?」と思うかもしれませんが、記事にまとめる段階でこの順番になっているだけで、実際のテストの順番は異なり、吸気・プッシュは2番目にテストしています。各テスト前には一度負荷をかけて十分に冷媒の温度を上げていますので、テスト順による影響はないと思います。
上の表を見る限りでは、吸気とプッシュを組み合わせた時に一番よく冷え、吸気と排気は吸気が、プッシュとプルはプッシュの方が効率が高そうであると言えます。また、プッシュとプルよりも吸気と排気の方が影響度が大きいという結果になりました。
今回の検証では、あくまでも、このPCケースの前面にラジエターを設置した場合の話です。プッシュとプルに関してはどうやら常にプッシュが良さそうですが、吸気と排気の話は、上面に設置した場合のエアフローはまた変わってきますし、吸気&プッシュで設置する場合には、冷却ファンをラジエターよりも外側に設置する必要がありますので、特に上面の場合には設置できないPCケースやラジエターもあると思います。そうなった場合に吸気を取るかプッシュを取るかは微妙な話になってしまいますね。
今にして思えば、背面のケースファンを吸気にして、前面のラジエターの冷却ファンを排気にしたら良いのかもと思いますが、既にこのPCは手元にないので検証できないです。ただ、前面への排気はPCの設置場所によってはPCの性能とは別のところで問題になる気がします。
また、今回は吸気でもPCケース内の排熱は十分に足りていましたが、夏場には排熱用のケースファンを追加する必要があるかもしれません。最近のCPUはTDPが大きいので冷却は本当に頭が痛い話です。