2TB版の中で安価で、公称のシーケンシャルリードが7000MB/s以上のSSD「Lexar NM790」を入手しましたのでレビューしたいと思います。気になる残容量別の性能に着目してテストしました。果たして最後まで安定して使えるのか?
一昔前のSSDの相場では2TBが何故か容量あたりの価格が飛びぬけて安かったのですが、徐々に1TBの倍前後くらいまで値上がりしてしまいました。現在の相場では1TBが1万円、2TBが2万円、4TBが3万円といったところでしょうか。ただ、1TBは安定して1万円というところですが、2TBでは2万円を数千円下回る価格のものがあります。今回レビューする「Lexar NM790」は、この価格帯でシーケンシャルリード7400MB/sと最速クラスのスペックを標榜しているSSDです。
コントローラーはMaxio製MAP1602、NANDはYMTC製232層3DTLCの組み合わせで、いわゆる蝉族と呼ばれているSSDの一種です。
Model : Lexar SSD NM790 2TB
Fw : 11296
HMB : 32768 - 32768 KB (Enabled, 32 M)
Size : 1953514 MB [2048.4 GB]
LBA Size: 512
Firmware id string[0C0] : MKSSD_100000000112963100,Apr 6 2023,21:26:01,MAP1602,1SSYBA4C
Project id string[080] : r:/1602-YMTC-X3-9070-SVN08705-Retail-SVN11296
Controller : MAP1602
NAND string : CYAxxTE1B1xC3B
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Ch0CE0: 0x9b,0xc5,0x58,0x71,0x30,0x0,0x0 - YMTC 3dv4-232L(x3-9070) TLC 16k 1024Gb/CE 1024Gb/die
Ch1CE0: 0x9b,0xc5,0x58,0x71,0x30,0x0,0x0 - YMTC 3dv4-232L(x3-9070) TLC 16k 1024Gb/CE 1024Gb/die
Ch2CE0: 0x9b,0xc5,0x58,0x71,0x30,0x0,0x0 - YMTC 3dv4-232L(x3-9070) TLC 16k 1024Gb/CE 1024Gb/die
Ch3CE0: 0x9b,0xc5,0x58,0x71,0x30,0x0,0x0 - YMTC 3dv4-232L(x3-9070) TLC 16k 1024Gb/CE 1024Gb/die
蝉族というのは政治的な事情によりアメリカに輸出できなくなってしまった高性能なSSDが安価に供給されるようになったとされるもので、最初に注目されたのがHIKSEMI Futureという製品だったことから、類する製品が蝉族と呼ばれるようになりました。
安価な製品ですのでDRAMレスではあるのですが、NAND自体の性能が高いために総合性能が非常に高く、登場時はキワモノ扱いでしたが、今ではコスパSSDのスタンダードなポジションに納まっています。
シンプルな片面実装ですので、裏面にはチップなどはありません。
フォーマット後の使用可能容量は1.86TB程度です。
SSDの性能というのは残容量が少なくなると劣化することがありますので、今回のレビューでは残容量が100%、50%、20%の時の性能を測定して、残容量による劣化についても測定しています。
CrystalDiskMarkによるピーク性能の測定
まずは定番のストレージのベンチマークCrystalDiskMarkによる計測です。テストするデータサイズはデフォルトの1GiBと、選択できる最大サイズの64GiBで測定しています。
まずは転送速度を残容量別に比較してみます。
残容量100%
残容量50%
残容量20%
データサイズが64GiBだと公称値を少し下回りますが、1GiBでは公称値を越えています。残容量毎に比べても誤差範囲ですが、50%のランダムライトのみ値が落ち込んでいます。この前の2つのシーケンシャルライトのテストで合計350GB程度を書き込んでいますので、SLCキャッシュからNANDに書き出す処理が被ったためだと思います。もしかしたら他のベンチを実施してからのインターバルが短すぎたのかもしれません。何れにしても残容量20%では100%と遜色ない(というか上回っている)値が出ていることからも問題視する必要はないでしょう。
次にレイテンシです。これはSSDに対して読み出し・書き込みの要求を出してから、実際に処理が開始されるまでの遅延時間ですので、値が小さいほど良いです。同じくデータサイズはデフォルトの1GiBと最大の64GiBで計測しています。
レイテンシも前の読み出し・書き込み速度と同じく、なぜか残容量50%のランダムライトのみに劣化が見られます。たまたまとかではなくて、この残容量時のキャッシュもしくは何らかの制御に癖があるのかもしれません。データサイズが64GiB時のRND4K Q32T16のレイテンシが多くてびっくりするかもしれませんが、これはCrystalDiskMarkのSSD用の設定で、16スレッドから同時に読み出し・書き込みが要求される訳ですのでレイテンシ(待ち時間)は当然長くなる意地悪なテストです。HDDなどで使用されていたデフォルトの設定だとヌルくてSSDでは差が出ないからとのことです。流石のSSDでも最大データサイズのランダムライトでは厳しいのでしょう。
レイテンシの結果も特に残容量による劣化は見られず、とても安定しています。
HWiNFOによる継続的な性能の測定
CrystalDiskMarkは手軽にストレージの性能を測定できる定番のベンチマークソフトなのですが、ピーク値を表示するものですので、もしかしたらほんの一瞬だけ高い数値が出ているだけの可能性もあります。そこで、HWiNFOを使用してCyrstalDiskMark実行中の読み出し・書き込み速度をロギングしてグラフ化してみます。CrystalDiskMarkはより厳しめの数値が出るデータサイズ64GiBで実行しています。
シーケンシャルリード(SEQ1M Q8T1)
7000MB/s台の時と6000MB/s台の波がありますね。これがSSDの特性によるものなのかCrystalDiskMarkの処理内容によるものなのかは明確にはわからないのですが、ベンチマークの実行回数が5回であるのに、波の数が合いませんのでCrystalDiskMarkの処理内容によるものというよりはSSDの制御の都合のような気がします。何れにしても読み出し速度は安定していますし、残容量による劣化も見られません。
ランダムリード(RND4K Q32T16)
残容量100%
残容量50%
残容量20%
シーケンシャルリードと同じく2つの高さの波があるパターンですが、波の出方には残容量毎の違いが見られます。残容量100%と50%では、それぞれの波の速度に差は見られませんが、残容量20%だけは全体的に10%程度の低下が見られます。とはいえ80%使用済の状態で10%の低下ですので、十分に優秀な数値だと思います。
シーケンシャルライト(SEQ1M Q8T1)
残容量100%
残容量50%
残容量20%
書き込みでは読み出しと比較すると荒れたグラフとなりますが、安定していると思います。残容量20%はなん中あたりで大きく速度低下していますが、恐らくSLCキャッシュからNANDに書き出す制御が入り始めたのだと思われます。残容量20%ですので、確保できるSLCキャッシュの容量も少なめになりますので、早めにNANDへの書き出しが始まるのは当然でしょう。
ランダムライト(RND4K Q32T16)
残容量100%
残容量50%
残容量20%
前章でも説明したSSD用の厳しい条件でのテストです。CrystalDiskMarkによる測定結果では残容量50%での数値のみが悪かったのですが、HWiNFOでのピーク値は残容量0%と同じくらいです。ピーク値が出ている時間は短いのでCyrstalDiskMarkがサンプリングするタイミングとはズレていたのでしょう。
逆に残容量20%ではグラフ後半は残容量100%と同等ですが、前半では大きく値を落としています。これは直前のシーケンシャルライト(SEQ1M Q8T1)の後半で始まったSLCキャッシュからNANDへの書き出し処理が継続されているためだと思われます。
ちなみに、このグラフの数値は、前章でのCrystalDiskMarkのスクリーンショットを計測した時に同時に採取したものですので、たまたま違う値が出ているとかではありません。同じベンチマーク中に採取した数値です。
実際に大容量ファイルを書き込みした時の性能を計測
ここでは、ベンチマークソフトによる性能計測ではなく、実際に大容量のファイルを書き込んでライト性能を計測してみます。計測には引き続きHWiNFOを使用します。こちらも残容量100%、50%、20%の状態で計測しています。
スペック上ではシーケンシャルライト6500MB/sですが、実際のファイルコピーでは、そこまでの速度は出ません。ベンチマークではSSDよりも桁違いに速いメモリー上で生成したデーターを書き込む訳ですが、実際のファイルコピーでは、コピー元からデータを読み込む処理が入るからです。
残容量100%
書き込むファイルは1TB分のファイルをコピーしています。
序盤は3000MB/s後半の値で推移していますが、230GB程度を書き込んだ頃から2000MB/s半ばくらいに落ちます。これはSLCキャッシュからNANDへの書き出し処理が開始されるためと思われます。通常はそんなに大きなファイルの書き込みはありませんので、SLCキャッシュへの書き込みのみを行い、ある程度SLCキャッシュを使用したところで「お、たくさん書き込むの?」とSLCキャッシュを空けるためにNANDへの書き出しが開始されます。後述しますが、この段階ではまだSLCキャッシュ切れはしておらず、容量を消費していない状態では1TB程度のファイルはSLCキャッシュで飲み込めてしまうようです。
残容量50%
SSDの容量を50%使用済の状態からですが、2TBのSSDでもフォーマット後の使用可能容量は1.86TBですので、1TBのファイルは書き込むことができません。大体いっぱいになる930GB分のファイルを書き込んでいます。
残容量は50%ですので、当然ながら残容量100%の時よりも確保できるSLCキャッシュの容量は少なくなります。序盤は3000MB/s後半の値で、途中から2000MB/s中盤に落ちるのは同じですが、その時の書き込み済容量は112GBと、残容量通り半分です。グラフを比べるともっと早い段階で落ちているように見えますが、残容量50%の方が横軸の経過時間が長いのでそう見えているだけです。
更に275GB、通算で387GB程度書き込んだところで、更に1000MB/s弱まで落ち込みます。ここがSLCキャッシュ切れだと思われます。つまりNANDの素の書き込み速度です。大体800MB/s前後です。SATA接続のSSDの最高速の1.5倍の速度であり、速度低下したいってもとても優秀な書き込み速度です。この「SLCキャッシュ切れでも800MB/s程度の書き込み速度を維持できる」というのが、いわゆる蝉族と言われるSSD製品群が評価されているポイントです。
他の計測でもそうなのですが、容量一杯に書き込まれる最後方では速度が回復するのが謎ポイントです。
80%を使用済ですので、残りの20%が大体いっぱいになるように350GBくらいのファイルを書き込んでいます。
このくらいの残容量となると、流石に潤沢なSLCキャッシュを確保する訳にはいきません。書き込み開始時は3000MB/s台後半ですが、90GBほどを書き込んだところで、短い時間だけ2000MB/s台となり、すぐにSLCキャッシュが枯渇してNANDへの書き込み速度と思われる800MB/sに落ちます。
ここでもなぜか残り100GB弱くらいで、ある程度速度が回復します。
【ヒートシンクは必要か?】Lexar NM790の発熱
SSDの温度上限は一般的に70℃くらいと言われています。Lexar NM790はヒートシンクなしでCrystalDiskMarkを実行すると、最初のシーケンシャルリードで75℃まで上昇して頭打ちになりました。サーマルスロットルリングが作動する温度は75℃のようですね。蝉族と呼ばれるSSDは比較的低発熱と言われていますが、流石にGen4のSSDでヒートシンクなしはちょっと厳しいです。
ここまでの、ベンチマークは全てマザーボードに付属していたヒートシンクを装着して計測した値です。一番負荷がかかるシーケンシャルリード・ライトでは最高72℃、大体70℃前後、ランダムリード・ライトでは65℃弱でした。ファイルコピーではアイドリングの50℃から開始して、30GB程度書き込んだところで60℃、通算58GB程度書き込んだところで70℃に達して、以降は70度前後で推移します。最高温度は72℃でした。
装着したマザーボード付属のヒートシンクは、フィンもない1枚板のヒートシンクですが、とりあえずはNM790の発熱は抑えきれているようです。もう少ししっかりとしたヒートシンクを付けた方が気持ち良いかな?
コントローラーもNANDも中華製品なのですが、232層3DNANDを世界で初めて製品化したのはYMTCだそうです。最近では、インテルやAMDを排除して純中華CPUでいくという中国の国策も発表されて、この先色々な意味でどうなるのでしょうね。
個人的には、ストレージにここまで拘る必要はないのではと思っています。4K動画でも1時間で50GB程度です。それに大量のファイルをコピーする時には放置して他のことをしていれば良いだけのことです。実用上、ほとんどの人はキャッシュ切れを気にする必要はないでしょう。
ただ、特に自作界隈ではパーツの性能に拘ること自体が趣味の一環である人は多いでしょうし、SLCキャッシュの挙動などが見えて面白いなぁとは思います。逆に言えば、ネットで叩かれているようなSSDでも通常使いでは問題になるとは思えず、あまり気にし過ぎる必要もないと思います。
とは言え、今回レビューした「Lexar NM790」(2TB)は、厳しめに評価をしても、かなりコストパフォーマンスに優れた良いSSDであることには間違いありません。