最近はHDDを買う時にはWD(Western Digital)製をチョイスすることが増えました。一般的にSeagateのHDDは故障率が高いと聞くからです。しかしWDのHDDにも問題があると言われています。それは「IntelliPark」と呼ばれる省電力機能がHDDの寿命を極端に縮めるというのです。今回はこのIntelliParkを実測値やメーカー公式の制限値などと合わせて本当に有害なのかを検討してみたいと思います。また、IntelliParkの無効化方法についても紹介します。
WDのIntelliParkとは
HDDの磁気ヘッドはステッピングモーターにより保持されていますので、その間はステッピングモーターが電力を消費しますし、ディスクの回転の空気抵抗にもなりますので、使わない時は磁気ヘッドを引っ込めてランプ(電源OFF時に磁気ヘッドのステーを固定しておく場所)に保持してしまうことで、これらのロスをなくして省電力化しようという仕組みです。
ちなみにこの待避させることを「アンロード」、アンロードされている磁気ヘッドをディスクの上に持っていく動作を「ロード」と呼びます。
一定時間HDDにアクセスがない場合にアンロードされる訳ですが、問題とされているのは、この「一定時間」が8秒と極端に短く設定されていることです。
IntelliParkはどのくらい省電力になるのかを実測
では実際にIntelliParkでどの程度省電力化されるかを実測してみましょう。計測はPC全体の消費電力ですが、普通にWindowsを起動してしまうとバックグラウンドプロセスの動作などに影響を受けて消費電力が安定しませんので、Windowsのインストーラーを起動した状態で計測しました。
まずは購入した状態、IntelliParkが有効になっている状態です。
そして次にIntelliParkを無効化した状態です。
多少消費電力に変動はありますが、大体0.8Wの違いです。HDDの仕様上のアイドル消費電力は3.4Wですので、20%近い消費電力を削減しています。ただしPC全体の消費電力から見れば無視しても構わないでしょう。ちなみにざっくり24時間で1Wが0.5円くらいです。
IntelliParkによってなにが起こるのか?
それでは、逆に「IntelliParkは本当に無効化するべきなのか?」という所を考えて行きます。
まず大前提として「ロード/アンロード回数」というのは信頼性を保つための指標(要はこの回数までは壊れないですよと)として仕様書に明記されています。今回のサンプルである格安モデルの「WD Blue」は30万回となっています。
ちなみにビジネス向けの高信頼性モデル「WD Red Pro」は倍の60万回です。
「高価だけどRedが良い」というのはこういった信頼性の違いによるものです。
それではIntelliParkが有効か無効かでどのくらいロード/アンロード回数に差が出るかの実測データです。まずはIntelliParkを無効にした状態でのロード/アンロード回数です。
使用時間114~343時間目までの229時間のデータです。この間のロード/アンロード回数は16進数で2B3回から316回に増加しています。10進数に直すと691回から790回へ99回の増加です。1時間あたりの平均回数は0.43回です。
次にIntelliParkが有効な状態でのロード/アンロード回数です。購入してすぐに無効にしていて、この記事の為に再び有効にして計測しましたので、時間軸ではこちらが後になります。
使用時間343~473時間目までの130時間のデータです。ロード/アンロード回数は16進数で316回からFF6回、10進数に直すと790回から4086回へ、3296回も増えています。1時間あたり平均25回になりました。
IntelliPark | ロード/アンロード回数 | 経過時間(時間) | 1時間あたりの回数 |
---|---|---|---|
無効化 | 99 | 229 | 0.43 |
有効(デフォルト) | 3296 | 130 | 25 |
要はこの回数がHDDの寿命に対してどうなのか?ということです。この1時間あたり25回でメーカー制限値の30万回に届く稼働時間は12000時間、1日3時間使うとすると4000日、つまり「IntelliParkを有効にしていても1日3時間の稼働であればロード/アンロード回数がメーカー基準値に達するまでの期間は10年」となる計算です。
実際にはこのロード/アンロード回数だけが原因でHDDが壊れるわけでもありませんし、HDDの理論値としての寿命が10年というのは充分ではという気がします。WD Redならば更に倍プッシュです。
あれ?IntelliPark、それほど問題ではない?
IntelliParkの無効化方法
上記は1日3時間稼働での計算ですので、通常の使用では大丈夫ではとなりました。しかし、24時間稼働のサーバーなどでは単純計算で寿命は8分の1、つまり1年ちょいで寿命を向かえる計算になりますし、届かないと思っても寿命に向かう速度が早いというのは気持ち良いものではありませんので、やはりIntelliParkは無効化するほうが良いのかもしれません。
ここではWDのIntelliParkを無効化する方法をご紹介します。こちらのサイトにてWDIDLE3というツールが配布されていますのでダウンロードして解凍します。このツールはコマンドラインで使用しますので、コマンドプロンプトを管理者権限で起動します。
[Windowsボタン] → [Windows システム ツール] → [コマンドプロンプト]を右クリックして表示されたメニューの[その他] → [管理者として実行]をクリックしてコマンドプロンプトを起動します。
WDIDLE3を解凍したフォルダに移動して、「wdidle3 /r」と入力します。これは現在の各ドライブのIntelliParkの設定状況を一覧表示するコマンドです。
私はDドライブにWD Blueを接続していますので、「PhysicalDrive 1 (D:)」に「8.000 seconds.」と8秒に設定されている事が表示されています。これ以降この「1」がこのドライブを指す番号になります。
続いて「wdidle3 /d 1」でIntelliParkを無効にします。「1」が上のドライブの番号ですので、ご自身のPCでの番号に読み替えてください。
「Idle3 Timer is disabled.」とIntelliParkが無効化されたことを示しています。元の8秒に戻す場合は「wdidle3 /s8 1」と入力してください。「1」はドライブの番号で、「8」が秒数を表しています。
この秒数は任意に設定できますが、300秒(5分)が最大値になっています。無効化してしまわないで5分に設定しておくのも悪くないと思います。
IntelliParkの無効化は一時期はWDがツールを配布したという経緯もありますので問題ないとは思いますが、もちろん自己責任でお願いします。ここに書いてあることが原因で、たとえあなたのHDDが核爆発を起こしたり、PCが自我に目覚めて人類を滅ぼすなど如何なる事態になったとしても、当方は一切感知しません。
あとがき
こんな感じで一般常識として「IntelliParkはすぐに無効化しろ!」というのが通説として定着していますが、冷静に計算すると、通常使用では問題になる数値でもないような気がします。このIntelliParkが登場した頃の主力製品であったWD Greenの不良率が高かったことと、今までよりもロード/アンロード回数が桁違いに増えたことで過剰反応になっているような気もします。
実際にIntelliParkに問題があるのかどうかを調べる為には統計学的に充分な台数のHDDをIntelliParkの有効、無効の2群に分けて長期運用して故障率を調べる必要があるわけですが、「IntelliParkは悪」と訴えている人たちはそのようなテストデータを元に主張している訳ではないと思いますので、濡れ衣なんじゃないのかなぁという気もします。実際にBlueが世に出てからそこそこ経過しましたがBlueが壊れまくるという話は聞きません。ましてやHDDの寿命を縮めて買い替えを促すなんて戦略をWDがとっているとはとても思えません。普通に考えてWDのHDDが早く壊れたら「もうWD買わない!」となる訳ですので。
まぁしかしIntelliParkを無効にしてもデメリットは小さいですし、少なくとも「従来通り」ですので、無効化しておくのが無難な選択なのかな?とは思います。格安HDDの双璧であるもう一方のSeagateは安定して故障率が高い感じがしますので、現時点では「WDのHDD BlueをIntelliParkを無効化して使う」のが安価なHDDでは無難なソリューションだと思います。
もちろん予算に余裕がある人はより信頼性の高いWD RedやHGSTのDeskstarを購入した方が良いのは確かです。壊れたら最新バックアップからの差分は消失しますし、最近は大容量化していてバックアップから戻すのも大変ですしね。私は貧乏ですのでBlueですが(笑)
いずれにしても、どんなに高信頼性を謳うHDDでも、HDDは比較的早く壊れる消耗品ですので、バックアップは絶対に必要ですよ!
ではまた!
Source : Western Disital