長らくソニーの独占状態だったフルサイズミラーレスについにニコンが殴り込んできました。そのニコンZシリーズはソニーとは異なる戦略をとってきたように思えます。今回はZシリーズの注目点やそこから垣間見える戦略を考えてみたいと思います。
太いぞマウント!漢のZマウント!
ソニーのミラーレスはミラーレスの利点を活かしてコンパクトさを追求してきました。Eマウントのマウント径は一般的な46mmと同社のAマウントの50mmよりも小さく設計されています。ところが、ニコンの新しいZマウントはコンパクト化に逆行する55mmと大型化されています。これはキヤノンのEFマウントの54mmを上回っています。しかし、こうしてみると従来はキヤノンが特別太かったのですね。
マウント径 | フランジバック | センサーサイズ | |
---|---|---|---|
ニコンZ | 55mm | 16mm | フルサイズ |
ソニーE | 46mm | 18mm | フルサイズ & APS-C |
ニコンF | 44mm | 46.5mm | フルサイズ & APS-C |
ソニーA | 50mm | 44.5 | フルサイズ & APS-C |
キヤノンEF | 54mm | 44mm | フルサイズ & APS-C |
マウント経が大きいとより深い角度からイメージセンサーに光を送ることができますので、広角レンズや大口径レンズの場合に有利になります。
キヤノンEFマウントよりも1mm大きいだけじゃないか?と思うかもしれませんが、ミラーレスですのでフランジバックが非常に短く、やはりミラーのある一眼レフと比較するとレンズ設計では有利になります。
Zマウントはライバルの中で「一番マウント径が大きく、フランジバックが短い」というアドバンテージを与えられています。
しかし、実はニコンのFマウントはEFマウントどころか、Eマウントよりも小さい44mmです。だからといってソニーやキヤノンよりもレンズ性能がしょぼいということもないので、実際にはレンズの設計次第でどうとでもなるのかもしれません。
とは言っても新しく開発中のZマウントレンズ「NIKKOR Z 58mm f/0.95 S NOCT」の0.95というF値はこのマウント径とフランジバックの合わせ技で実現したとのことですので、無関係ではありません。個人的にはどんな法外な価格で登場するかに注目していますが(笑)
また、マウント径が拡大されたということで「中判を意識している」とかいう声もありましたが、前述の通りEFマウントより1mm大きいだけですし、中判である富士フィルムのGマウントは65mm、ペンタックスの645に至っては72mmもの大口径ですのでZマウントは全然小さいです。ニコンも「フルサイズ用に設計してある」とコメントしています。
ボディはそれほどデカくない?
マウント径はかなり大きいのですが、ボディはさほど大きい訳ではありません。確かにα7シリーズと比較すると 高さで7mm、幅と厚みが5mm程度大きいのですが、並べてみるとさほどのサイズ差は無いように思います。
ニコン Z7 | ソニー α7RIII | ニコン D850 | |
---|---|---|---|
サイズ | 134 x 100.5 x 67.5mm | 126.9 x 95.6 x 73.7mm | 146 x 124 x 78.5mm |
質量 | 585g | 572g | 915g |
グリップはα7シリーズに比べて太くなっており、α7シリーズのグリップが小さくて握りづらいと騒いでいる人達には朗報でしょう。またニコンのカメラは従来より堅牢さが売りの一つであるので、このあたりも意識されているものと思います。α7シリーズは温度変化にも物理的な衝撃にも弱いと言われていますので、過酷なフィールドでの信頼性は期待したいところです。
重量的にはZ7が本体のみで585g、α7RIIIが同じく本体のみで572gですのでほとんど同じです。ちなみにD850は本体のみで915gもありえらい差です。脚で写真を撮っている人であれば、この重量差が大きいことは文字通り骨身に染みているでしょう。
デザインはいまいち?
これは完全に好みの問題だと思いますが、ニコンは今ひとつデザインがパッとしない気がします。Zシリーズもどこか野暮ったいような。レンズのデザインが特に顕著でFマウントレンズもゴールドのメッキがあまり好きになれませんでしたし、Zマウントレンズもどこか安っぽく感じます。ソニーのレンズはなんというかシュッとしていてカッコいいですよね。最近ではシグマのレンズデザインもイケてると思います。
良く写ればそれで良いという意見もあると思いますが、やはり高価なものですので箱から出して眺めた時の所有満足度も大切だと思います。逆にそこが無骨で良いという意見の否定はしませんけどね。
あと肩液晶っていります?ファインダーを顔から離すと液晶モニタが点灯しますので、液晶見ますよね?私は5D MarkIIIを使っているときですら肩液晶は全くみません。液晶モニタの方が情報量が多いのでボタンを押して液晶モニタを点灯させて確認しています。
Zシリーズの弱点は入り口の狭さか?
Zシリーズとα7シリーズと一番大きな違いは、廉価モデルの有無だと思います。α7シリーズにはα7IIという型落ちながら十分な性能のフルサイズカメラが(キャッシュバックを考慮すると)僅か10万円ちょいでラインナップされています。また、APS-Cであればα6500がやはり10万円程度。α6000に至っては5万程度です。いずれも性能的に十分なモデルです。対してZシリーズはZ6が25万円スタートです。
このようにEマウントには歴史を重ねた分だけ型落ちというエントリーモデルが存在します。これはマウント全体で見た場合に大きな力です。実際に私もつい最近α7IIを購入しました。レンズに関してもEマウントは5年をかけてやっと揃ってきました。純正だけではなくシグマやタムロンなどのサードパーティーのレンズも充実し始めています。
Zマウントはいずれは本流の一つとなるでしょうが、それにはかなりの時間を要するのは間違いありません。もっともFマウントレンズを流用するためのマウントアダプタがFマウントネイティブと遜色ない動作をすると言うことですので、そのあたりは期待したいところです。
あとがき
ソニーEマウントカメラではミラーレスであることを活かしてコンパクトさを追求する形ですが、ニコンZマウントでは従来のハイエンド一眼レフカメラの置き換えに主眼を置いているように見えます。フルサイズ同士のZシリーズとα7シリーズではサイズ差は小さいのですが、Eマウントカメラには更に軽量で安価なAPS-Cカメラであるα6000シリーズが存在します。Zシリーズはそのマウント経の大きさからこのような更にコンパクトなモデルは作れないでしょう。
また、レンズに関してもEマウントレンズにはその口径の小ささを活かした軽量コンパクトなレンズが多数ラインナップされています。
「エントリー層をハイエンド層に誘導する」のがソニーの戦略であるならば、「すでにいるハイエンド層に乗り換えを促す」のがニコンの戦略といった感じでしょうか。何れにしても後追いでどのようにソニーに挑むのか興味津々でしたが、独自のアプローチで面白いと思います。
α7シリーズは、2013年のα7の登場から5年が経過し、ハイエンドモデルのモデルチェンジ周期は一般的には4年が相場ですが、α7は5年の間に2回もモデルチェンジして急速に進化してきました。ニコンZシリーズの1世代目がどのレベルのカメラなのか?楽しみですね。
キヤノンは一眼レフカメラのセンサーにもデュアルピクセルCMOSを組み込むなど、ニコンに比べてミラーレスへの準備は進んでいるように見えましたが、結果はニコンが先手で驚きました。
ではまた!
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