Amazonのセールでよく見る安価なSSD「G-Storategy NV470」の4TBの実力を検証しました。SSDはHDDとは理屈はことなりますが、残容量によってパフォーマンスが低下したりしますので、残容量毎に検証しています。
現在の相場では1TBが1万円前後、2TBが2万円弱、4TBが3万円前後と、4TBが容量あたりの価格が安くなっています。今回はデータ置き場用のドライブも爆速にしてしまおうと、4TB版を入手しましたので、残容量毎に詳しくパフォーマンスをテストしてみました。現在はなぜかヒートシンク付属の4TBはラインナップから外れています。
公称値はリード7450MB/s、ライト6500MB/sとGen4のSSDで最速クラスです。Amazonの販売ページではあたかもPS5用のように記載されていますが、別段PS5専用という訳ではなく、もちろん普通にPCに使えます。
コントローラーはMaxio製MAP1602、NANDはYMTC製232層3DTLCの組み合わせで、いわゆる蝉族と呼ばれているSSDの一種です。
Model : NV47004TBY3G1
Fw : HS16570
HMB : 40960 - 40960 KB (Enabled, 40 M)
Size : 3907018 MB [4096.8 GB]
LBA Size: 512
Firmware id string[0C0] : MKSSD_101000000165703100,Dec 9 2023,02:52:26,MAP1602,1SSYBB5C
Project id string[080] : r:/1602-YMTC-X3-9070-All-Capacity-Base-SN12699-001
Controller : MAP1602
NAND string : CYAxxTF1B1xPAD
List may not be complete
Ch0CE0: 0x9b,0xc6,0x59,0x71,0x30,0x0,0x0 - YMTC 3dv4-232L(x3-9070) TLC 16k 2048Gb/CE 1024Gb/die
Ch1CE0: 0x9b,0xc6,0x59,0x71,0x30,0x0,0x0 - YMTC 3dv4-232L(x3-9070) TLC 16k 2048Gb/CE 1024Gb/die
Ch2CE0: 0x9b,0xc6,0x59,0x71,0x30,0x0,0x0 - YMTC 3dv4-232L(x3-9070) TLC 16k 2048Gb/CE 1024Gb/die
Ch3CE0: 0x9b,0xc6,0x59,0x71,0x30,0x0,0x0 - YMTC 3dv4-232L(x3-9070) TLC 16k 2048Gb/CE 1024Gb/die
蝉族というのは政治的な事情によりアメリカに輸出できなくなってしまった高性能なSSDが安価に供給されるようになったとされるもので、最初に注目されたのがHIKSEMI Futureという製品だったことから、類する製品が蝉族と呼ばれるようになりました。
安価な製品ですのでDRAMレスではあるのですが、NAND自体の性能が高いために総合性能が非常に高く、登場時はキワモノ扱いでしたが、今ではコスパSSDのスタンダードなポジションに納まっています。
フォーマット後の使用可能容量は3.72TBです。
SSDの性能というのは残容量が少なくなると劣化することがありますので、今回のレビューでは残容量が100%、50%、20%の時の性能を測定して、残容量による劣化についても測定しています。
CrystalDiskMarkによるピーク性能の測定
定番のストレージのベンチマークCrystalDiskMarkによる計測です。テストするデータサイズはデフォルトの1GiBと、選択できる最大サイズの64GiBで測定しています。
まずは転送速度を残容量別に比較してみます。
残容量50%
残容量20%
データサイズが大きい方が若干悪い数値が出るのは一般的な傾向です。1GiB、64GiB共に公称値には届きませんが、誤差範囲と言って良いでしょう。恐らく他のメーカーであれば最大読込速度を7400MB/sと記載するのではと思いますが、7450MB/sと記載しているのは50MB/sの差で選ばれのを期待してのことでしょう。セコさを感じますが、性能的にはなんら問題は見られません。
容量別に見ても、最初に目がいくシーケンシャルリードを残容量が少なくなるにつれて若干遅くなっているように見えますが、逆に速くなっているものもありますので、計測誤差の範疇だと考えられます。特にCrystalDiskMarkは瞬間的なピーク値ですので。逆に残容量が20%でもこの速度を保っているのは安定感があります。
次にレイテンシです。これはSSDに対して読み出し・書き込みの要求を出してから、実際に処理が開始されるまでの遅延時間ですので、値が小さいほど良いです。同じくデータサイズはデフォルトの1GiBと最大の64GiBで計測しています。
データサイズが64GiB時のRND4K Q32T16のレイテンシが多くてびっくりするかもしれませんが、これはCrystalDiskMarkのSSD用の設定で、16スレッドから同時に読み出し・書き込みが要求される訳ですのでレイテンシ(待ち時間)は当然長くなる意地悪なテストです。HDDなどで使用されていたデフォルトの設定だとヌルくてSSDでは差が出ないからとのことです。
ここで、注目なのは残容量の違いによる均一性です。残容量20%のSEQ128K Q32T1のみ少しレイテンシが増えていますが、あとはビックリするくらい変化がありません。
HWiNFOによる継続的な性能の測定
CrystalDiskMarkは手軽にストレージの性能を測定できる定番のベンチマークソフトなのですが、ピーク値を表示するものですので、もしかしたらほんの一瞬だけ高い数値が出ているだけの可能性もあります。そこで、HWiNFOを使用してCyrstalDiskMark実行中の読み出し・書き込み速度をロギングしてグラフ化してみます。CrystalDiskMarkはより厳しめの数値が出るデータサイズ64GiBで実行しています。
シーケンシャルリード(SEQ1M Q8T1)
7000MB/s台の時と6000MB/s台の波があります。これがSSDの特性によるものなのかCrystalDiskMarkの処理内容によるものなのかは明確にはわからないのですが、読み出し速度は安定していますし、残容量による劣化も見られません。
ランダムリード(RND4K Q32T16)
残容量100%
残容量50%
残容量20%
CrystalDiskMarkの結果でも残容量が50%の時だけ60MB/sほど速かったのですが、瞬間的な値ではなく安定してその速度が出ていることがわかります。なぜ残容量が50%の時だけ早かったのかは定かではありませんが、ここでも注目すべきは残容量による速度の低下が見られないことです。気味が悪いくらいに均一です。
シーケンシャルライト(SEQ1M Q8T1)
残容量100%
残容量50%
残容量20%
流石に書き込みでは、ブレ幅は残容量が少なくなる従って多少大きくなりますが、それでも全体的な速度はとても均一性が高いと思います。容量が4TBですので、残容量が20%といっても80GB近くあり、SLCキャッシュを確保しやすいこともあるのでしょう。1TBや2TB版では残容量20%では、もう少し荒れたグラフになると思います。
残容量20%の最後ではSLCキャッシュからNANDに書き出す制御が入り始めたと思われ3000MB/s弱に速度が低下していますが、この3000MB/s弱というのは他の蝉族SSDでも同様でした。
ランダムライト(RND4K Q32T16)
残容量100%
残容量50%
残容量20%
残容量50%の途中から速度が低下していますが、SLCキャッシュからNANDへの書き出しなどの制御が始まったためと思われます。ベンチマークを何回も繰り返し実行している訳ですので、たまたまこのタイミングで制御が始まったというだけで、再度計測し直したところ下のような均一なグラフのようになりました。
残容量50%(再計測)
上記でも解説したように、このQ32T16というのはSSDをいじめるためのかなり厳しい条件のテストです。全体的な速度は遅めだと思いますが、大きく乱れることなく、やはり均一性が高いのが見て取れます。
実際に大容量ファイルを書き込みした時の性能を計測
ここでは、ベンチマークソフトによる性能計測ではなく、実際に大容量のファイルを書き込んでライト性能を計測してみます。計測には引き続きHWiNFOを使用します。こちらも残容量100%、50%、20%の状態で計測しています。
スペック上ではシーケンシャルライト6750MB/sですが、実際のファイルコピーでは、そこまでの速度は出ません。ベンチマークではSSDよりも桁違いに速いメモリー上で生成したデーターを書き込む訳ですが、実際のファイルコピーでは、コピー元からデータを読み込む処理が入るからです。
書き込むファイルは1TB分のファイルをコピーしています。
序盤は3000MB/s台の値で推移していますが、630GB程度を書き込んだ頃から2000MB/s半ばくらいに落ちます。これはSLCキャッシュからNANDへの書き出し処理が開始されるためと思われます。通常はそんなに大きなファイルの書き込みはありませんので、SLCキャッシュへの書き込みのみを行い、ある程度SLCキャッシュを使用したところで「お、たくさん書き込むの?」とSLCキャッシュを空けるためにNANDへの書き出しが開始されます。後述しますが、この段階ではまだSLCキャッシュ切れはしておらず、容量を消費していない状態では1TB程度のファイルはSLCキャッシュで飲み込めてしまうようです。
序盤は3000MB/s台で、160GB程度を書き込んだところで、2000MB/s台半ばに速度低下するのは同じですが、更に340GB程度(通算で500GB程度)を書き込んだところで、1000MB/s弱にまで低下します。これがSLCキャッシュ切れです。
SLCキャッシュ切れ後は大体900MB/s前後の速度になります。この速度がNANDの素の書き込み速度という訳です。これはSATA接続のSSDの最高速の1.5倍の速度であり、速度低下したいってもとても優秀な書き込み速度です。この「SLCキャッシュ切れでも1000MB/s弱の書き込み速度を維持できる」というのが、いわゆる蝉族と言われるSSD製品群が評価されているポイントです。
残容量20%
残容量20%だと空き容量が1TBを下回りますので、大体いっぱいになるように760GBくらいのファイルを書き込んでいます。
このくらいの残容量となると、流石に潤沢なSLCキャッシュを確保できません。書き込み開始時は3000MB/s台後半ですが、80GBほどを書き込んだところでSLCキャッシュが枯渇して、NANDへの書き込み速度900MB/s前後に速度低下します。
なぜか、SSDの容量がいっぱいになる前には乱高下しながら最高速が上がるのですが、他の蝉族でも同じ現象が見られましたので、コントローラー(MAP1602)共通の特徴のようです。
付属のヒートシンクでだいじょうぶか?
蝉族は一般的に低発熱と言われていますが、ヒートシンクなしではベンチマーク時には一瞬でサーマルスロットルリングが作動する温度まで到達します。本製品にはヒートシンクが付属していますが、より大型のものに交換する必要はないのでしょうか?下のグラフは1TBを書き込んでいる時のSSDの温度推移です。
基本的に温度は右肩上がりで頭打ちになるところまでは行かなかったのですが、1TBものファイルを連続書き込みして50℃ですので問題ないというか、めちゃめちゃ優秀です。ちなみにベンチマーク中はどうかと言えば、CrystalDiskMarkで最高41℃でしたので全く問題ありません。
本製品はコントローラーもNANDも中華製品なのですが、232層3DNANDを世界で初めて製品化したのはYMTCだそうです。中華侮れませんね。。
個人的には、ストレージにここまで拘る必要はないのではと思っています。4K動画でも1時間で50GB程度です。それに大量のファイルをコピーする時には放置して他のことをしていれば良いだけのことです。実用上、ほとんどの人はキャッシュ切れを気にする必要はないでしょう。
今回レビューした「G-Storategy NV470」は今まで聞いたことがない正体不明のメーカーですが、内容は実績のある蝉族であり、性能的にはとても優秀でした。コストパフォーマンスは非常に高いと言えます。先にも書きましたが、現在のSSDは4TBが最も容量単価が低いので、そろそろHDDを排してSSDオンリーでPCを組む時代になってきたのかなと思うのですが、最近は4TBのSSDの在庫切れが目立つようになりました。政治的な理由でダブついていると言われたYMTCの232層3DNANDの在庫が少なくなってきたのかもしれません。気になる方はお早めに。